夜空の鳥の日記

時にそこはかとなく、時につらつらと

返事をする

 自分のことを呼ばれたら、ちゃんと返事をしなさい。それも「うん」じゃなくて「はい」とはっきり言いなさい。

昔、祖母に叱られた時の言葉。細かいことまでいちいちうるさいわと、当時は反発したくなったものだが、思い返せば私の人生で、「呼ばれたら返事をしろ」と明確に教えてくれたのはこの祖母だけだったんじゃないか。

かつて、一緒に仕事をするのに苦痛でならなかった人がいた。理由は簡単、そいつは私と話す時に何の反応も示さなかったからだ。「私は今あなたに話しています」という意志をはっきりさせるため、私は相手の名前を呼んで話をするようにしていた。しかしこいつ、自分の名前を呼ばれても何も言わない。こちらに一瞥をくれはするから聞こえていると思うんだけど。話の最中もうんともすんとも言わないので、私の話を本当に聞いているのか不安にさせられた。いつもこんな対応をされるので、気力を大いに削がれて疲労甚だしく、こいつと働くのが次第に苦痛を通り越して拷問に感じるようになった。話すべきことも話せなくなって、仕事が悪循環に陥りつつあるのが火を見るより明らかだった。更に気分が悪いことに、ろくに返事もしないのに目だけはギョロつかせて、こちらを睨むように見る。先述の一瞥もこのような目つきだからたまらない。こんな態度を常にとられて、どうしてすすんで話し掛けようと思えるだろうか。

目は口ほどに物を言うともいうけれど…。やはりそれだけじゃ伝わらないものもあるだろうに。暗黙の了解? いいえ、やって欲しいことがあるなら言われなきゃ分からない。こちとらエスパーじゃない。言葉で伝えないと、すれ違いや誤解を招くおそれが多くなると思うんだけど。私が返事するのに値しないとでもいうのか。それとも、そもそも返事の仕方が分からないとでも。

つらつらと並べ立てたが、とにかくこれ以来、私は自分が呼ばれたらちゃんと「はい」と返事をするようにしている。自分がされて嫌なことは、人にもしたくないからだ。そして恐ろしいのは、もし祖母が教えてくれなかったら、私も返事もろくに出来ないような人間になっていたかも知れないということ。ばあちゃんには感謝しなければならないだろう。